ピロールイミダゾール詳細説明



 ピロールイミダゾールポリアミドはDNAを塩基特異的に認識する




 ピロールイミダゾールポリアミド(以下、PIポリアミド)は2001年、

PeterBDervanらにより総説が発表された化学合成物質です。抗生物質である

デュオカルマイシンAとディスタマイシンAが協同的なDNAのアルキル化能を有している

事をヒントとし、PIポリアミドは分子設計され、DNAのマイナーグルーブを認識している

ことがわかりました。

 合成されたDNAbindingPIポリアミドは、Py/ImペアがGC、Py/PyペアはATまたはTA、

Im/PyペアはGCを認識し、ターゲット遺伝子を抑制することができます。

またこのPIポリアミドは標的とするあらゆる遺伝子に対して合成することができ、

阻害する転写因子を選択することで遺伝子の抑制効果を任意に調節することができます。

 既存のアンチセンス、siRNAと異なり核酸構造を有しないため、生体内で核酸分解酵素に

分解されにくく、ベクターやカオチン脂質などのドラッグデリバリーシステム、

エレクトロポーレーション法などを生体投与時に必要としません。


ピロールイミダゾールポリアミドはDNAに結合、遺伝子発現をコントロールする

PIポリアミドはDNAのminorgroove(狭い溝)に入り込み結合します。

PIポリアミドがDNAに結合することにより、転写に関わる因子(基礎転写因子や転写抑制因子)の

結合を阻害し、遺伝子の発現抑制をすることができます。

 ターゲット遺伝子のエンハンサーの結合を阻害すれば遺伝子発現を抑制でき、サプレッサーの

結合を抑制すれば遺伝子発現を増強することが可能になります。






TGF-β1をターゲットにしたピロールイミダゾールポリアミドの創薬例







TGF-β1のプロモーターの上流には高血圧の病態で分泌されているアンギオテンシンUに反応し、

プロモーター活性を亢進させる部位があります。その部位(AP‐1 bindingelement)に結合するように

PIポリアミドをデザインしました。TGF-β1以外でAP−1bindingelementを有しAP−1タンパクによって

発現が抑制されている遺伝子には影響がないように、AP−1bindingelementそのものに対してではなく、

TGF-β1固有の配列を含み、なおかつAP−1タンパクの結合を抑制するように合成されています。

 今回合成したPIポリアミドの結合をgetshift assayにて確認しました。

polyamideはターゲット配列を含むDNAに結合しましたが、TGF-β1の固有の遺伝子にミスマッチを入れると

DNA結合しませんでした。また、異なる配列に対するミスマッチpolyamideもマッチDNAに

結合しませんでした。

 合成されたpolyamideはターゲット配列に強く結合します。またコンセンサス配列だけでなく、

その遺伝子固有の配列を含ませてデザインすることで固有の遺伝子に対して特異性を

獲得することができます。



ピロールイミダゾールポリアミドは細胞の核に効率よく取り込まれる




 ラットの培養メザンギウム細胞にFITCラベルPIポリアミドを加えると、2時間後には

細胞の核に取り込みが認められます。培養液中のpolyamideを洗い流した後も

少なくとも96時間までは核へのpolyamideの集積を認めました。

 Dervanらのグループは多くのcelllineの細胞への取り込みを証明しています。我々も、

メザンギウム細胞以外にも血管平滑筋細胞、内皮細胞、脂肪細胞などの

培養細胞の核にpolyamideが集積することを確認しています。

 これらの取り込みは、ベクターやカオチン脂質などのドラッグデリバリーシステム、

エレクトロポーレーション法などを全く使わずに行われています。



ピロールイミダゾールポリアミドは生体内に効率よく取り込まれる







 腎臓では特に尿細管の核に集積が強く確認されました。尿細管に比べると

やや少ないですが、腎糸球体にも多くの取り込みが見られました。

 胸部大動脈では、血管内皮や血管平滑筋層まで取り込みが観察されました。

 肝臓、肺、脾臓にも取り込みが見られましたが、心臓、脳には取り込みが認められませんでした。

右上の表にHPCLを用いて取り込みの割合を解析した結果を示します。


腎障害モデルラットにおけるTGF-β1ピロールイミダゾールポリアミドのin vivo効果



 7週齢(250g)の食塩感受性高血圧ラットを2群に分け、コントロール群には

低食塩食(0.3%NaCl)を、高血圧モデル群には高食塩食(8%NaCl)を

2週間食べさせました。

 更に、高血圧モデル群は、高血圧無治療群、polyamide治療群、mismatch治療群

の3群に分けました。polyamide治療群は1mg/body、隔日投与を尾静脈注射にてpolyamideの

投与を行いました。それぞれのラットは1週間ごとに尿サンプルの採取、血圧測定を

行っています。

 なお、今回の実験において、polyamideははラットの体重、腎機能に影響を与えませんでした。

腎機能については2週間の観察期間において、低食塩、高食群の2群間においても

有意な差を認めませんでした。



TGFーβ1ピロールイミダゾールポリアミドは尿タンパクを完全に減少した





 低食塩群のラットは2週間後の血圧も正常でした。高食塩群にはのラットでは

1週間後には有意な血圧上昇を認めました。polyamideの投与は血圧の変動に対して

特に影響を与えませんでした。

 2週間の食塩負荷では腎臓の組織学的変化は起きませんが、

既に1週間後には高血圧による微細な腎障害が起きており、低食塩群に比べ、

高血圧無治療群では尿中へのタンパク、微量アルブミンの排泄が増加しています。

 しかし、polyamide治療群では、これらの排泄が非常に抑制されており、

TGF-β1に対する polyamideは腎障害に対する有用な治療薬になる可能性が示唆されました。




TGF-βピロールイミダゾールポリアミドは腎臓での遺伝子発現を抑制した




   食塩負荷2週間後の腎臓でのTGF-β1の発現を

Real−Time PCR法にて検討したところ、高食塩群のラットでは低食塩群のラットに比べ

非常に発現が亢進していました。ところが、Polyamide治療群では血圧を落としていないにもかかわらず、

TGF-β1の発現を有意に抑制していました。

 またTGF-β1タンパクの生産に対する効果を、ELISA法を用い尿中のTGF-β1タンパクの

排出量を測定することで検討しました。高食塩群のラットでは低食塩のラットに比べ非常に

タンパク発現が亢進していました。ところが、polyamide治療群ではmRNA同様にTGF-β1

タンパク発現を有意に抑制していました。